1-ii 着物の流通体系
着物の原価を決める一つの大きな要因に複雑な流通体系があります。
生産者から消費者に商品が渡る過程を単純化すれば、

  生産者→問屋→小売屋→消費者

となります。生産者の段階では多くの複雑な行程を経て問屋に渡ることは「?-? きものの原価」でお話いたしましたが、それらは必要欠くべからざる行程がほとんどです。細分化され、専門職によって行われる生産工程は日本の着物がいかに奥深いものかを感じさせてくれます。

しかし、生産者の手を離れて小売屋に行き着くまでには真に複雑怪奇な工程となります。

もちろん、生産者から問屋に売り渡され、それを問屋が小売店に卸す、と言った単純な流通形態もあります。流通体系が単純であれば上載せされる付加価値は少なくなり価格は安くなるのですが、実際はもっと複雑な流通形態があります。

問屋には「産地問屋」、「前売り問屋」と言った様々な問屋が有ります。問屋の役割は生産者から買取り小売店に卸す、と言った単純な役割だけではありません。

生産者(織屋、染屋など)の中には多くの従業員を抱え、産地を本社として東京や京都に支店を持つような大きな会社もあれば、家内工業のような零細な生産者も沢山あります。

大手のメーカー(生産者)は、直接「前売り問屋」(小売店を相手にする問屋)に商品を売ることができますが、零細な生産者は営業力がないので、多くの問屋を相手に商売することはできません。

そこで、「産地問屋」が零細な生産者から商品を買い集めて「前売り問屋」に卸す必要がでてきます。「前売り問屋」にしてみれば、こまめに商品を買い集めなくても「産地問屋」を通してその産地の商品を一括して仕入れるメリットがあります。生産者にしてみれば、多くの問屋に営業することなく生産に従事できるメリットが生まれます。

「生産者」「産地問屋」「前売り問屋」それぞれが大切な役割を果たしてきたと言えます。しかし、それらの役割は必ずしも一線を引けるものではなく、大手の「生産者」の中には直接小売店に商品を卸す(あるいは小売店に卸す別会社を有する)会社もありますし、「産地問屋」でも小売店に卸す場合もあります。

そう言った役割は必要なもので、必ずしもそれによって小売店が買い取る商品原価に大きな影響を与えるものではありませんが、問屋間で商品をキャッチボールする場合があります。

「生産者」→「産地問屋」→「前売り問屋」→「小売屋」と最短距離で商品が売り渡されれば、価格にはそう響かないのですが、産地問屋間、前売り問屋間を商品が行き来する場合があります。行程が一つ多くなれば価格は上がるのが原則です。この業界ではそういった事が良く見られます。
例えば次のような場合です。

前売り問屋A社が西陣の雨コートが必要になった場合。(小売店からの注文や売出しで必要になった時等)取引先の産地問屋b社、c社、d社いずれも必要とする西陣の雨コートを扱っていなかった場合。

A社はb社、c社、d社いずれかを介して雨コートを扱う産地問屋e社から仕入れます。

その場合、商品の流れはe社→b社(又はc社、d社)→A社となります。e社からA社が直接仕入れるよりも高い価格で仕入れることになります。場合によっては、前売り問屋F社より仕入れる場合もあります。
以前次のようなことがありました。

私の店にやってきた問屋が商品を広げたところ、前に他の問屋が持ってきた帯でした。値段を聞くと三割ほど高いものでした。
「ずいぶん高いね。」
と言って問い詰めてゆくと。
「いやー、実は借りてきたんです。」
と言うことだった。

仲間の問屋から商品を借りてマージンを上載せして小売店に卸す。これでは価格が高くなっても当たり前である。

そのような経験は何度もある。問屋が小売店から注文を受けると、川上すなわちメーカーあるいは産地問屋からではなく仲間から商品を融通しあって商売を調達する。そういうことが普通に行われている。

何故そのようなことになるのだろうか。

商品を販売する者は、他社よりも安価に商品を提供し、消費者はできるだけ安価に商品を手に入れたいと思っている。流通の原則である。

しかし、何故呉服業界では同じ物を平気で高値で売ろうとするのだろうか。いや、売ろうとするのは売れるからである。何故だろうか。

トヨタのディーラーに来たお客さんが、日産の自動車が欲しいと言った時、トヨタのディーラーが日産から車を仕入れ、マージンを上乗せして販売することができるだろうか。全くの笑い話である。その笑い話が呉服業界では常時行われている。

原因としては、消費者の無知に付け込んでいるのは否めない。車であれば消費者は価格は承知している。カタログや車の雑誌を見れば標準価格は容易に知ることができる。価格を知らないとしても軽乗用車と普通乗用車でどちらが高いかは分かる。

着物の場合、消費者は着物の価値を判断できない場合が多い。提示された価格が正当であると思ってしまう。そういった事を知ってか知らずか、業界では高価になるのも構わず商品をキャッチボールしている。もちろんこれは常時行われているわけではないが、問題はその意識である。消費者に対してより安い商品を提供する努力がこの業界では問われている。

 

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