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6. ゆかたの比翼

 最近ゆかたの時期になると、商社がゆかたの比翼を持ち込んでくる。
「今たいへん良く売れています。」
と言う。数年前からゆかた用の比翼が売り出されているが私の店では扱っていない。

 比翼と言うのは裾や衿、袖口等に下着のまわりの部分だけをつけて二枚重ねて着ているように見せるもので、衿だけの物は衿比翼、重ね衿または伊達衿とも呼ばれている。

 比翼は寒いときに何枚も重ね着をした名残りである。その源は十二単衣(じゅうにひとえ)にまでさかのぼるのかもしれないが、単に重ね着をするだけではなく重ねる衿に色の変化をつけて、おしゃれに用いたものである。日本のきものには、夏は夏らしく冬は冬らしく、他人の目を楽しませる機能を持っている。平安時代の頃には貴族の住居とはいえ住宅事情も悪く、暖房も後の世程充実していなかったので、寒い日には暖をとるために実際に何枚もきものを重ねて着たのだろう。現代では真冬といえどもきものを何枚も重ね着する必要はなくなっている。しかし、暖かさを表現する意味もあり、きものの一つのおしゃれとして重ね衿、伊達衿として残っている。 

  もうお分かりだと思うが、伊達衿、重ね衿は冬のおしゃれである。暖かさを表現する重ね衿が何故ゆかたに使われなければならないのか。何故ゆかたに比翼を付ける発想が生まれたのか、私には分からない。

 市中ではゆかたの比翼は良く売れていると云う。重ね衿をアピールしたゆかたの宣伝広告もきものの雑誌に見受けられる。なるほど夏らしい鮮やかな色を重ねたゆかたは、その意味を知らない人達にはステキに映るらしい。しかし、比翼の意味を知り、きものの伝統を知る者にとっては滑稽に見えてしまう。夏の半袖Tシャツに毛皮の襟巻きをしているようにも見えてしまう。

 今後益々ゆかたの比翼は普及するのかも知れない。「売れれば良い」という供給側、「着てステキであれば良い」という消費者。双方必ずしも非難される立場ではないけれども、先人が築いてきたきものの伝統を理解することなしに、ゆかたの比翼がもてはやされているとしたならば私にはとても寂しく思われてしまうのである。

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