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8. きものの生地について

 私はお店でお客様からいろいろな質問を頂戴しますが、きものの生地について良く聞かれます。
「この生地は何と言うのですか。」
「ちりめんというのはどんな生地ですか。」
など。生地については大変複雑で、またきものの用語は曖昧ですので一口では説明しにくいのですが、本日は少し詳しくお話ししようと思います。

 (帯ではなく)きものに限って言いますと、良く使われる生地は大きく分けて「縮緬(ちりめん)」「羽二重」「紬」の三つがあります。

 まず良く使われる「ちりめん」についてお話します。

 ちりめんという言葉は呉服を語る上で良く使われる言葉です。「丹後ちりめん」という言葉を聞いたことはあるかと思います。国民的番組である水戸黄門では、「越後のちりめん問屋の光衛門」というセリフが度々登場します。ちりめん問屋という言葉がある以上、ちりめんだけを商って商売になるのだから、ちりめんとは一体何だろうと思った方もおられるでしょう。

 ちりめんと聞けば何を連想されるでしょうか。

 多くの人が思い浮かべるのは、ちりめんの風呂敷ではないでしょうか。ちりめんの風呂敷は表面が凸凹しています。これをシボと言うのですが、このシボがちりめんの特徴です。

 しかし、ちりめんと言うのは、風呂敷に用いられるシボの大きな生地だけを指しているのではありません。 「ちりめん(縮緬)」と辞典で調べると、「横糸に強い撚りを掛けた絹糸で織った生地」と書いてあります。これがちりめんの本来の意味です。もっと詳しく申し上げれば、ちりめんとは次のような織物です。

 絹糸は蚕が口から吐いた繊維である事は誰でも知っていると思います。 非常に細い繊維ですが、絹の正体はフィブロインという白い繊維です。蚕の口から吐き出されたフィブロインの周りにはセリシンという糊が付いています。ちょうど鉛筆の芯をフィブロインに例えると、鉛筆の木の部分がセリシンです。鉛筆の芯は一本ですが、蚕の口から吐き出された糸は、フィブロインが二本並んだ形になっています。セリシンは糊ですので蚕が首を振りながら絹糸を吐き出し固い繭を造ることができるのです。 さて、その繭を解いて繊維を取り出します。一本では細いので数本(4〜11本)束ねて糸にします。

  その束ねた糸に強い撚りを掛けて織った生地がちりめんです。撚りを掛けるのは生地を丈夫にするための工夫です。

  糸の撚り方には右撚りと左撚りとがあります。S撚りZ撚りと言うこともあるようです。 ちりめんの生地は、その右撚り左撚りの緯糸を数本ずつ交互に織って行きます。糸にはセリシンが厚く付いていますので、織り上がったちりめん地は固くゴワゴワしています。初めて丹後のちりめん工場に行った時、宝石のような白い光沢のある絹織物からは想像できないようなゴワゴワした生地を見せられて驚いたことを思い出します。

  織り上がったちりめん生地はそのままではきものになりませんので、糊抜きをします。この工程を精錬と言います。 この精錬という工程を経て初めて光沢のある白いちりめん生地になります。

  さて、精錬によって糊が抜けると、強く撚りを掛けられた糸は緩んで撚りを戻そうとします。右に撚った糸は左に、左に撚った糸は右に戻ろうとします。その時、右撚りと左撚りの糸が干渉しあって生地の表面がシボができます。 このシボは右左一本ずつ交互に織ったものよりも二本ずつ交互に織ったものの方が強く干渉し合ってより大きくなります。

  ちりめん生地には様々な種類があり、一本ずつ交互に織ったものを一越ちりめんと呼びます。一越ちりめんはシボがそれ程大きくなく、留袖や訪問着によく使われます。 また、シボの大きな鬼ちりめん、鶉ちりめんと呼ばれるちりめんがあります。これは右左4〜6本交互に織るもので、シボが大きく風呂敷に使われる生地がこの鬼ちりめんです。ちりめんの特徴であるシボが目立ちますので、鬼ちりめんのことを狭い意味で「ちりめん」と呼び称されるようになったものと思います。

  しかし、本当の意味では、鬼ちりめんだけでなく一越ちりめんや襦袢に使われる綸子もちりめんです。綸子は繻子組織を用いますので光沢があり、風呂敷に使われる鬼ちりめんとは一線を画すように思えますが、綸子もちりめんです。 してみると、女性用の柔らかものと呼ばれるきものの表地は、ほとんどがちりめんと言っても過言ではありません。

  ちりめんと言うのはそれだけ色々な種類があるのですから、越後のちりめん問屋が成り立つわけです。

  ちりめんと対比して語られる生地が羽二重です。羽二重という言葉はちりめんと伴に呉服用語では良く聞かれます。 ちりめんは強い撚りを掛けた生地、とご説明しましたが、羽二重は撚りを掛けずに織った生地です。撚りを掛けませんので当然シボはできず、すべすべした光沢のある生地に仕上がります。織の組織も平織が多く、生地のバリエーションはちりめん程多くはありませんが、糸の太さを変えることによって違った顔を見せてくれます。

  羽二重の代表的なものは男の紋付地です。重みのある羽二重でつくった黒紋付は男のステータスと言えます。時折五十年以上前の黒紋付を持ち込まれる事がありますが、厚地のものはしっかりとして今なお仕立て替えにも耐えられるものです。

  袷の着物の裏地に用いられる胴裏地も羽二重です。紋付用の羽二重とは違い、薄手ですが組織は同じ羽二重です。細い糸で織っているので薄くなる訳ですが、余りに厚いと重くなってしまいますので薄くて滑りのよい羽二重地を胴裏に用います。

  もう一つ、良く用いられる羽二重生地は染帯に使われるものです。塩瀬羽二重と呼ばれています。お茶で使う袱紗もこの塩瀬羽二重が用いられます。 塩瀬羽二重は経糸を密に張り、太い横糸を織りこんだもので、生地がしっかりとして横糸が目立つ羽二重です。生地がしっかりとしていますので帯地にも使われています。胴裏と同じ羽二重と云われてもピンとこないかもしれません。

  羽二重は主に裏地として使われ、表生地として使われるのは前述した男物の紋付くらいです。少し前(4〜50年前)までは女物の喪服も羽二重だったのですが、今はほとんどがちりめん生地になっています。お年の方の中には「喪服は羽二重」と言う方が居られましたので、十年ぐらい前までは私の店でも羽二重の紋付を用意していたのですが、今は置いていません。もっとも注文があれば染めることはできますが。

  何故喪服が羽二重からちりめんになったのか、その理由は定かではありませんが、比べてみると羽二重は光沢がありますのでなんとなくちりめんよりも白っぽく見えてしまいます。ちりめんはシボがありますので黒々としているのですが、並べてみると羽二重は見劣りがするのかもしれません。

  きものの生地として量的には、ちりめんの方が圧倒的に多いのですが、羽二重地はきものにはなくてはならないものです。羽二重は製織時に乾燥を嫌うので山地は北陸や越後が多かったのですが、最近廃業する織屋さんが多く、羽二重がなくなってしまうというような話も聞きますがさびしい話です。

  さて、生地に関してはお客様から生地の厚さ、重さを聞かれる事があります。
「この生地はしっかりしている。」
「この生地は薄くてだめだ。」
と言ったような話です。特にご年配の方は生地の厚さを気になさるようです。

 ちりめんも羽二重も厚い生地、薄い生地がつくられています。重い生地、軽い生地といってもいいかもしれません。

 ちりめん地は軽い物から、貫四、貫六、貫八、二貫、二貫二百、二貫四百というように呼ばれています。ちなみに貫四というのは十反で一貫四百匁、すなわち5.25kg、一反の重さが525gということを表しています。それぞれの呼称と重さは表の通りです。

帯ちりめん生地の重さ
呼 称
10反当りの重さ
貫 四  1貫400匁   5.25kg
貫 六 1貫600匁    6kg
貫 八  1貫800匁    6.75kg
二 貫  2貫       7.5kg
二貫二百  2貫200匁   8.25kg
二貫四百  2貫400匁     9kg

反物の重さと言うのは、どれだけ絹糸を使って織っているかと同義ですので、重い方が高級であるということは言えると思います。しかし、次のような事があるのは忘れてはなりません。

  戦前戦後の頃、絹は貴重品だった上に品不足でした。ですから、厚い生地、薄い生地が用いられました。生地の値段が染め上がった商品の価格に大きく影響したものですから、安価な商品をつくるために薄い生地を使ってきものを作ったのです。中には生地を良く見せる為に、糊で増量して重さをごまかす事もあったと聞きます。 その頃を覚えている人にとっては、生地の良し悪しを見分ける目は必要でしたし、生地の量目は着物選びの大切な要素であったと思います。

  しかし、今日絹は昔ほど貴重品ではなくなっています。むしろ職人の人件費が高くなっていますので着物の付加価値(価格)に締める白生地の意味は昔ほどではありません。生地の重さをごまかしたり、薄い生地を使って安価な商品を作ろうと思ってもそれほど意味がなくなって(安くはならない)しまったからです。

  先ほど反物の重さを貫四、貫六などと呼びましたが、現在反物の重さはグラムで表示されています。反物の端に「780g」「710g」「680g」と刻印されています。700g前後でしたら問題はありませんし、意図的に粗悪品を作ろうとしない限り生地の重さはそれほど問題にしなくても良いと思われます。

  生地を触って重く感じたり、薄く感じたりする事もありますが、その多くは生地の織り方による感触ではないかと思います。前述した鬼ちりめんはシボが高いので生地が厚く感じられます。また、江戸小紋は細かい型で染めるので、シボのある生地を嫌い、シボのないさらっとした生地が使われますので薄く感じてしまいます。

  さて、ちりめんの量目についてお話しましたが、羽二重についてはちりめんとは違った単位であらわされます。こちらは「目付け」と呼ばれる単位を用います。

  目付と言うのは精錬して糊を落とした状態で、幅一寸(3.8cm)長さ六丈(小幅で二反分の長さ22.8m)当たりの重さを匁(3.75g)で表したもので、○○目付けと言う言い方をします。胴裏地に使われる羽二重地は、十四付(14目付け)、十六付(16目付け)と呼ばれるものが一般的で、通常使用するのでは十四付で十分です。胴裏の中には何付かは分りませんが、指でしごくと糸が寄ってしまうものもあると聞きますが、そのような胴裏は避けるべきでしょう。

  最近は、生地の話になりますと重さよりも産地が話題になります。 現在国内で絹を生産しているのは山形と群馬だけになってしまいました。昔は全国どこででも、と言っても良いくらいに蚕を飼っていました。私の自宅にある蔵も、元は蚕を飼っていた蔵だと聞いた事があります。しかし、今は外国産の絹に圧されて蚕糸業は廃れてしまいました。

  日本の農産物は絹に限らず、改良に改良を重ねて真に良い商品が造られています。しかし最近は価格が安いというだけで消費者の支持を得て中国はじめ海外から安い農産物が日本の市場に入り込んでいます。日本の他の農産物や工業製品も同じですが、苦労して高品質のものを創ってきた当事者の気持ちはいかばかりかと思います。

  しかし、現実にも目を向けなければなりません。現在絹は中国やブラジルから輸入されています。とりわけブラジルからの輸入が増えていると聞きます。日本の絹の生産量を考えれば、流通しているきものの多くが海外の絹だと考えた方が早いと思います。 日本人は、安いとばかりに海外の輸入品を受け入れる一方で国産品に対するナショナリズムも併せ持っています。国産が高級、海外品とりわけ新興国の産品は三流品という意識はぬぐい去れないようです。

  たしかに前述したように日本の農産品は世界に冠たるものだと私も思っています。しかし、その他の輸入品をまとめて三流品扱いすることにはもっと冷静にならなければならないと思います。

  きものの生地は蚕から採った絹糸で生地を織り精錬して整理・検査を経て染加工に回されます。 海外の絹糸を使って生地を織るわけですが、その加工は様々です。絹糸を輸入して国内の織屋が生地を織る場合もあります。海外で生地を織り、輸入して国内で精錬する場合もあります。精錬も海外で行い白生地として輸入する場合もあります。

  二十数年前、海外から白生地が輸入され始めたころ、白生地には原産地が表示されていました。「○○産」。この○○に入るのは、台湾、中国、韓国、マレーシア等だったと思います。しかし、その表示の上にシールが貼ってあり、原産国表示を隠していたものがありました。 また、海外で織ったであろう白生地に、「精錬 日本」とやけに目立つ表示があったこともありました。国産品を印象付けようとしたのでしょうか。やはりきものの世界では国産品崇拝が根強いと感じさせられました。

  その頃の海外の生地は確かに国産品より見劣りしたように思えます。当時問屋にいた私が中国産生地の付け下げを小売屋に持ち込んだところ直ぐに見破られてしまいました。

「結城君、良く見てみい。ここに線が入っているやろ。これは蒸しの痕や。日本でやったら蒸す時に縄を使うんやけど、中国では針金を使うから生地が折れて線が消えへん。いくら湯のししてもこの線は消えへんで。」

 当時の海外の技術は稚拙だったと言えます。しかし、最近の輸入品は一昔前とは違った様相を呈しています。

 海外の製品でもきちんと生産管理して作られたものもあります。また一方で、安さにこだわり見劣りする商品もあります。海外品全てを三流品とする見方は変えねばならないでしょう。

 つまり、海外の製品でも、きものの生地として十分に受け入れられるものから首をかしげてしまう商品まであると言う事です。

 海外の商品に比べて国産品が良いのは言うまでもありません。糸の細さや均質さなどデータの上でも実証されています。私も是非国産の生糸、国産のきものを着ていただきたいと思っています。しかし、それだけではこの業界が成り立たないところまできています。

 海外の製品であってもピンキリであることを忘れてはならないと思います。

 絹製品が輸入されるようになってから、呉服業界では海外製であることを隠そうとしたり、国産品 だと偽ろうとしていたふしがあることは否めません。今後このような姿勢は通じなくなるでしょう。もっと現実に目を向けなければならないと思います。 輸入品や原産国に関しては、中国餃子の問題ではありませんが、これから法的にも厳しくなる様ですので、消費者も冷静な目で見ていただけるようになると思います。

  海外製品の話しになってしまいましたが、きものの生地としてもう一つ、紬の話をしなければなりません。

 
ちりめんや羽二重は繭から採った生糸で織られています。しかし、紬は同じ繭から採るのですが、綿状になった繭から紡いで糸にします。その紬糸で織った生地が紬です。紬とちりめん、あるいは紬と羽二重の違いは誰でも分かると思います。 紬糸は生糸と違って一様な糸ではなく、節のある不均質な糸です。ですから織り上がった生地はちりめんのようなサラサラした生地ではなく、表面がざらついた生地になります。

  通常紬は先染めで織られます。糸の段階で色を染めて生地にします。 紬は生地として扱われることはあまりありません。ほとんどが先染めで織られるので、生地の良し悪しよりも製品の良し悪しで語られるからです。紬の白生地もないわけではありませんが、あまり目にすることはないでしょう。

 紬の中では、経糸緯糸共に手紡ぎの糸を使う結城紬が最高とされています。紬の生地の良し悪しに序列を付ける事も出来るでしょうが、紬は産地により織り方により様々な顔を見せてくれますし、その風合いを楽しむという面があります。ですからこの紬とあの紬のどちらが良いかと言う議論よりも、好みと価格を比べて選ばれてはいかがかと思います。

 ちりめん、羽二重、紬の生地について語ってきましたが、先に申し上げました通りきものの生地のほとんどがこれらの生地であると言って差し支えありません。しかし、きものの名称は曖昧で分類の仕方によっては別の名称を聞く事もあるかもしれません。

 よく聞くきものの生地に「お召し」と言うのがありますので、このお召について少しお話いたします。

 「お召し」は「お召しちりめん」とも呼ばれます。製品分類上、お召しはちりめんの一種と言って構わないと思いますが、学術的にどう分類されるのかは分りません。

 ちりめんは通常織った後に精錬され糊抜きが行われ白生地となります。しかし、お召しはちりめんと同じように強く撚りを掛けた生糸で織られるのですが、糸の段階で精錬され染色されます。つまり、糊を抜いて色を染めた糸で織られるのです。先に糸を染めますので先染めちりめんとも称されます。 強撚糸で織られますからちりめんと同じくシボができますが、シボの風合いはちりめんとは違います。ややざらついた風合いになります。

  お召しは十一代将軍徳川家斉が好んで「お召しになった」ことからお召しと呼ばれるようになりました。用途としては男物の色紋付、女物の縞お召しがあります。

  きものの生地についてお話してまいりましたが、今日お話しした「ちりめん」「羽二重」「紬」「お召し」といった絹物の他に、綿、麻、ウール、最近はポリエステルをはじめとする化繊の生地もあります。これらには触れませんでしたので、また次の機会にお話ししたいと思います 。

  絹物の話だけでもとても言いつくせるものではありませんし、私も知らない事がたくさんあります。ちりめんにも様々な種類がありますし、名称の曖昧さも手伝ってはっきりと言い表せないこともあります。
「この生地は何と言う生地ですか。」
と聞かれると返答に窮してしまいます。
「ちりめんです。」 と答えれば、言葉が足らないように思えますし、事細かに説明しようとすると多くの時間を要してしまいます。

 きものの生地については、本日お話しした「ちりめん」「羽二重」「紬」「お召し」と言った知識をお持ちいただいた上で考えられたらと思います。

平成二十四年四月三日



 

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