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6. きものの寸法について

 着物の寸法と言うのは分かりずらいかも知れません。今の人達にとっては寸法に限らず、きものと いうのが分かりずらいのかも知れません。

  何故かと言えば、やはり現代は洋服が主流になっています。衣服に関しては全て洋服を基準として 考えてしまいますので、きものの事はピンとこないのだろうと思います。

  きものは一枚の布から仕立てられます。一枚の布と申しますと、語弊があるのですが、洋服でもきものでも一枚の布から仕立てられるのは同じですが、「一枚の布」というのは、それとは違ったニュアンスで、一枚の布を直線裁ちして仕立てられているという意味です。

  男性のスーツも一枚の布から仕立てられますが、スーツの場合、広幅と言って幅の広い布から、言わば自由に型紙を用いて切り出した布で仕立てられています。

  スーツの袖付けはとても複雑です。昔、母が洋裁を習っていた時にスーツを仕立てた時の苦労 は良く聞かされます。スーツの袖付けを丸く、皺ができないように縫製するのは至難の技だそうです。

  体の線に合わせて曲線に裁った布を縫い合わせるのが洋服です。

  しかし、きものは長さ約12メートル、幅40センチたらずの生地を無駄なく直線裁ちして仕立て られます。正に「一枚の布から仕立てる」という表現がぴったりだと思います。その意味で構造上、 洋服よりも着物の方がより単純だと言えるかもしれません。

  一反の反物から、まず長い布二枚と短い布二枚を裁ちます。長い布を合わせて半分だけ縫い合わせ ます。

  そして、その両側に二枚の短い布を縫い合わせます。 長い布は「身頃」と呼ばれ、短い布は「袖」と呼ばれます。真ん中から二つ折りにして身頃の両脇 と袖の先を縫い合わせます。

  なんとなくきものの形の様に成ってきました。

  肩山(身頃の折り目)の中心から両脇に少し切り込みを入れます。

  頭を入れて袖に手を通すと、きものを着ているようにも見えます。たった四枚の布を裁って、直線 に縫い合わせただけで、きものができてしまいました。

  きものの仕立てはこれだけではなくもっと複雑なのですが、昔きものの起源はこんなものだったか もしれません。

  さて、これでは前が合わさりません。無理にあわせたとしても少しなので、寒い日は風が通ってし まうかも知れません。前を合わせる為には後身頃よりも前身頃の方が幅が広くなければなりません。 そこで前身頃に布を足します。一幅(約40センチ)足したのでは広すぎますので、生地を縦に裁っ て半分の幅の布を足します。これを「おくみ」と言います。


  これで前身頃を充分に合わせることができました。

  しかし、これでは首が出せなくなってしまいますので、おくみの上半分は斜めに裁って襟にします。 これで首が出せるようになりました。

  大分きものらしく成ってきました。

  しかし、まだ不都合があります。このきものでは、肩山の中心部(首の部分)は前にしか開いてい ませんので、首を前に突き出さなければなりません。そうしなければ肩に皺がよってしまいます。そ の弊害をなくすために肩山を後ろにずらします。ずらすために後身頃、肩甲骨の辺りですが、その辺 りの生地に襞を取って引っ張るのです。これを「くりこし」と言います。

  こうすれば、最初に入れた切込みが後ろにずれますので、首がすんなりと入ることになります。 細かく言えば、きものはもっと複雑なのですが、これできものの大体の構造はお分かりいただけた と思います。

  さて、きものの寸法を分かりずらくしている要因に寸法の単位があります。何に限らず、寸法長さはメートル法で規制されているのが現代日本の度量衡です。公文書、契約書等は必ずメートル法、すなわちメートル、センチメートル、ミリメートルで記載しなければなりません。

  しかし、呉服の場合、寸法は慣習的に尺貫法で表されています。もちろんメートル法が普及すると 同時に仕立の学校でもメートル法できものの寸法を教えたらしいのですが、長年の慣習と言うのはそ う変えられるものではありません。今でも尺貫法は呉服業界では大手を振ってまかり通っています。 私もその一人で、未だに、きものの寸法をセンチで言われてもピンとこないのです。

  そして、更に話を複雑にしているのは、尺の単位にも曲(かね)尺と鯨尺と言う二つの単位がある ことです。具体的に言えば、曲1寸は約3センチ、鯨1寸は3.8センチになります。

  曲と鯨と言う二つの尺寸があるのは、それなりの経緯があるのですが、センチと合わせて三つの単位体系があるのですから、きものの寸法の分かりにくさを助長していると言えます。

  私の店でも過去に曲と鯨を間違えてトラブルを起こしたこともありました。

  関西では主に鯨尺が使われるようです。山形では曲尺が多いようなのですが、呉服屋は京都に習って鯨尺が多いかもしれません。

  今日は寸法の話ですので、単位は避けて通れません。とりあえず私の慣れている鯨尺と万国共通の センチメートルでお話しようと思います。

  さて、きものの構造、単位の話をしましたが、これらは言わば前置きにあたりまして、これから、きものの寸法の話をいたします。

  きものの寸法と申しましても、「前幅は○○センチ」「後幅は○○センチ」「身長○○センチの人は 身丈が○○センチ」と言う話ではありません。その類の話は物の本を開けば分かりますし、私などよ りも仕立ての先生の方がはるかに詳しいでしょうから。

  実は、私はそういった寸法の話を人前でするのは、余り自信がありません。私も着物を着ますが、女性の着物ではありませんので、教科書を越えたような微妙な寸法の話になると、やはりきものを着 慣れている女性にかないません。

  今日は、私がいつもきものの寸法について思っている事、と言うよりも皆様に是非知っていただき たいことをお話したいと思います。

  きものを取り巻く環境が危機的状況にあるのは、私だけでなく多くの人が感じていると思いますが、 きものの寸法についても、きものの危機を助長するような事があります。

  まず、裄丈についてお話します。これは是非理解していただきたいことです。裄丈と言うのは、ご存知だと思いますが、襟ぐりから手首までの寸法です。洋服では袖丈と同義ですが、きものの場合、袖丈は別の寸法を意味しますので、裄または裄丈と言います。この裄丈は腕の長い人は長く、短い人 は短くなる訳です。

  きものは、先に申し上げました様

に、単純な構造をしていまして、裄丈は肩幅と袖幅を足した長さ になります。ですから、理論的には反物の幅の二倍(縫い代を除いて)の長さが仕立てられる最大の 裄丈ということになります。おすもうさんのような体格の場合は、生地を継ぎ足して仕立てることが あります。

  さて、最近裄丈がだんだん長くなっています。

  ある時、ゆかたを見にいらした若いお客様に声を掛けたところ、

「私は裄が長いのできものは着れないんです。」
という答えが返ってきました。私はその意味がすぐには理解できませんでした。彼女の身長は160センチ程度で、それ程腕が長いとは思えません。そして、
「呉服屋さんで目いっぱい裄を長くしてもらったんですが、ここまでしかないんです。」
と言って手首の辺りを指差して言うのです。ようやく私は彼女の言うことが理解できました。

  きものの裄丈は、手を真っ直ぐ横に伸ばして手首の所までの寸法です。実際にきものを着た方なら 分かりますが、手を下に降ろすと手首が大きく露出してしまいます。つまり、裄丈というのは、手を 伸ばした時と降ろした時では長さが違うのです。私の場合裄丈は、きものの測り方では68センチ ですが、洋服では78センチになります。

  洋服の裄丈は、手を下に下げた時に手首にかぶる位が標準ですので、洋服を着慣れている人にとっ ては、きものの裄丈は短く感じられます。

  きものの裄の測り方が何故そのようなのか。手を下ろした時に手首が出てしまうのかは、はっきり した事は分かりませんが、私は次のようだと考えています。

  きものには洋服と違って袖があります。腕を伸ばした時には下に袖が下がる格好になります。 食事をする時の事を考えてください。飯台に向かって手を伸ばして物を(例えば調味料を)取る場 合、裄が洋服並に長ければ、袖は手首を越えて手の甲にかぶってしまいます。そして、袖の大きな袂 がじゃまになります。

  日本人の動作として手を伸ばして物を取る時には反対の手で袂を抑えます。裄が長ければ袖を抑え にくいと言う事と関係があるのではないかと思います。

  また、裄が短ければ冬場寒いのではないかと思われるかも知れません。しかし、昔の日本人の動作 を考えると、体の両脇に腕をだらりと下げる格好は余り無かったように思えます。 洋服でしたらバックを持って、手を下げて歩くという事はあります。現代は和装向けの手の付いた バックがありますが、昔のバックと言えば風呂敷です。風呂敷で包んだ物を手に下げて歩くというこ とはありません。風呂敷包みは常に胸の辺りに手で抱えるのが普通です。風呂敷を持たなくても、歩く姿勢は、両手を振って歩くというのは余り無かったように思えます。

  私が初めて就職した時、その研修で禅寺に行った事がありました。寺の中での振る舞いを教わりま したが、歩く時には両手をへその上辺りに組んで歩くように言われたのを覚えています。

  日本人は、手を伸ばして歩くと言うのが余り無かったので、裄が短くてもそれ程不都合を感じなか っただろうと思います。

  きものには並寸というのがあります。並寸というのは、標準寸法、普通の人はこれ位、という寸法 なのですが、裄に関して言えば並寸は1尺6寸5分(63センチ)です。

  今、この並寸で仕立てる人はほとんどおりません。希におりますが、小柄な御年配の方がほとんど です。

  現代は昔よりも体格が良くなって裄も長くなっています。しかし、体形以上に裄に対する考え方が 変わってきているので、裄を長くする人が出てきたようです。

  先に申し上げましたとおり、裄は最大で反物の幅の二倍、すなわち1尺9寸程度、並寸よりも2寸5分長く採れるわけですから、身長が180センチの人でも充分なはずなのです。やはり洋服の感覚 できものを着る人が増えたのでしょう。

  裄が長くなっているもう一つの原因に、きものの雑誌の影響があるように思えます。モデルさんの 着るきものの裄は、手首が隠れるほど長いものが多く見られます。モデルさんは背の高い方が多いので、どうやってそれ程長い裄に仕立てるのか首をかしげてしまうようなものにもお目にかかります。

  マスコミの影響というものは恐ろしいものがあります。モデルさんが着ていた、タレントが着ていた ということになると、それが正しいように思ってしまいます。私ははっきりと、
「あれは、問題だ。間違っている。」
と、言いたいのですが、マスコミを崇拝する人達は、私の話になど耳は貸さないでしょう。マスコミ を信じるでしょうから。

  しかし、手首に掛かる程の裄丈が正しいとしたら、先の女性のようにきものを仕立てられない女性 が続出する事でしょうし、並寸が1尺6寸5分ですので、昔の女性の身長は140センチそこそこし かなかったことになるわけです。

  今の反物は昔に比べて幅が広くできておりますし、さらに幅の広い反物も織られているようです。 しかし、裄丈の問題はそれに留まらず、もう一つの問題があります。それは私もどう解決したらよい のか分からない問題です。

  最近の女性は身長が伸びてきています。そして、モデルさんのようにほっそりとしたスマートな女性が多くなってきました。背が高くスタイルの良い女性です。

 
スタイルが良い、スマートな人というのは身幅が狭くなります。狭いと言っても後身幅は並寸(7寸5分、28センチ)を下回ることはないのですが。

  身頃は一枚の布でできています。つまり、後身頃は肩幅につながっています。一枚の布です。

  背の低い人は裄も短くなりますし、背の高い人は裄が長くなります。裄は袖幅プラス肩幅ですので、裄の長い人は肩幅も広くしなければなりません。後幅と肩幅はつながっていますから、裾からずっと 上がって、身八つ口の所までは真っ直ぐになるのですが、肩幅との差を吸収する為にそこから斜めに 袖付けに向かいます。その差は並幅ですと1〜2センチあります。身八つ口からわずかに外に向かっ て広がるわけです。

  身長が高くスマートな人は、後幅は並寸ですが、裄を長く採らなければなりません。袖幅だけで長 い裄丈を採れれば良いのですが、そうは行きません。反物幅以上の袖幅は採れないからです。もしも、袖幅だけで裄を採ったとしても、とても不恰好なきものになるでしょう。

  裄をいっぱい取ると、1尺9寸位ということはお話しましたが、後幅が並寸で、1尺9寸の裄を採 ろうとすれば、肩幅は9寸5分。後幅との差は2寸(7.5センチ)にもなってしまいます。後幅と 肩幅の差を7.5センチ採るのは、仕立屋さんに言わせれば不可能…いや、不可能ではないのですが、 大変奇妙なきものに成ってしまいます。

  背の高い人は身幅も広い。つまり背の高い人は必ず肥えている、という不文律が成り立つのであれ ば、裄が長くなっても後幅と肩幅の差は少なくなり、それ程問題はないのですが、背が高い人は太っ ているとは限りません。それどころか、背が高くスマートな日本人女性が増えているように思えます。
  もともと、きものは日本人女性の身長が140〜150センチ程度の時代にできたものでしょうから、きものの構造から言って170センチ以上の女性のきものの仕立にはどうしても無理があるのかもし れません。それに加えて洋服並に裄を採りたがることが拍車を掛けています。

  バレーボール選手のように180センチを越える女性には特別な仕立を考えなければなりません が、現代の女性には、まず裄を従来の測り方で測ってもらえればそれ程問題は無いように思えますが いかがでしょうか。

  もう一つ、寸法について、身丈の話をします。

  女性の着物は、「おはしょり」という特殊な着方をしますので身丈は着丈よりも長くなってしまい ます。

  「おはしょり」と言うのは、御殿できものの裾を引きずった「引きずり」の名残らしいのですが、 きものの特徴でもあります。

  では身丈をどの位に採ればいいのかと申しますと、今は身長と同じというのが標準になっています。 そのまま着ると引きずってしまいますので、「おはしょり」という襞を作って着る訳です。

  襞の先は帯の下5〜7センチ程度出るのですが、崩れないように中の襞を紐で抑えます。 さて、この紐を締める位置はどの辺りになるのかと申しますと、身丈から自ずと決まってくるので すが、今は腹の辺りにするようです。昔は文字通り腰紐を腰に(今よりもずっと下に)締めていまし た。ですから昔は今よりも身丈が短かったようです。

  以前、お客様の注文通りに仕立てたところ、
  「身丈が短くて」
と言われた事がありました。良く聞くとその方は、自分で着られる人なのですが、たまたま着付師に 着せて貰ったところ、
「身丈が短いです」
と言われたと言うのです。その方は自分で着る時には腰紐を腰の辺りにしていたのですが、着付師は 腹の辺りに締めたのでしょう。

  腰紐の位置は、腰にする人、腹にする人、どちらが正しいと言うことはありません。昔、腰紐を腰 にしたというのは次のような理由だと思います。

  腰、すなわち腰骨の周囲というのは、寸法が変わりません。下腹が出たり引っ込んだりはしますが、それ程の差ではありません。しかし、腹は大きく出たり引っ込んだりしますので寸法が変わります。
 
  満腹の時と腹ぺこの時、腹式呼吸をした時など、締めた腰紐が緩んだり、きつくなったりします。緩 めば着崩れてしまいますし、きつければ苦しくなってしまいます。

  最近、着付けてもらって気分が悪くなってしまったと言う話を何度か聞きました。腰紐を腹に、そ れも着崩れないようにとギュウギュウ締めるものですから結婚式などで気分が悪くなってしまうのか もしれません。

  裄丈と身丈についてお話してきましたが、要約しますと、きものの構造は比較的単純ではあります が、近年従来の寸法とは違ってきています。しかし、洋服感覚できものの寸法を考えると、きものはと てもおかしくなってしまいます。そればかりか、仕立てられないと言うことも出てくるわけです。そ して、きものの寸法は、着る人の主観が反映されるもので、画一的ではないと言うことです。

  同じ身長、同じ腕の長さの人でも、好みの裄の長さは同じではありませんし、身丈でも同じ事が言 えます。 その人に合った寸法は客観的に決められるものではなく、主観的つまり、その人にとって着心地が 良いかどうか、最も着心地の良い寸法が適寸ということになります。

  腰紐は腹にした方が着易い人もいれば、腰にした方が着易い人もいます。

  もっと細かい事を言いま すと、合褄幅と前身頃にどの位差をつけるか。それは主観でしかありません。合褄幅よりも前身頃の 幅を広く、洋服で言うAラインのように仕立てた方が着易い人もいれば、真っ直ぐの方が着易いと言 う人もおります。

  胸の大きい人は抱き幅を大きく採ったりしますが、衿をどの位開けたいのかでも寸 法は違ってきます。

  きものの寸法につきましては、是非「自分の寸法」を持っていただきたいと思います。初めてきも のを仕立てる方、私の店にもお出でになりますが、そういう方には、呉服屋は標準的な寸法で仕立て ます。これは当たり前で、勝手に勘ぐって微妙な寸法に仕立てるわけには参りません。

  その着物を着て、自分の本当の寸法を考えていただきたいのです。着慣れない方の中には、着崩れ ないように前幅をもう少し広く取った方が良いと思われる方もいらっしゃるでしょう。

  腰紐の位置が どうも気に食わない、もう少し長く(短く)した方が良い、あるいはくりこしをもっと深くして欲し い、など色々あると思います。

  全く同じ体形の人に同じ寸法のきものを着てもらっても、着易い着難いはその人の主観によるものです。そういう意味では、きものの寸法は単純にして複雑であると言えましょう。


 

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