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47. 袋帯

 きものの帯と聞けばどんな帯を思い浮かべるだろうか。
 帯には色々な種類がある。ゆかたに締める半幅の帯から豪華な丸帯まで、いずれもきものを着るのに必需品である。こと太鼓を造る帯となると名古屋帯か袋帯である。私の店でも数量、金額共に最も多いのは名古屋帯と袋帯である。ゆかたに締める半幅帯は数こそ出るけれども金額的には少量である。高価な丸帯も売れるには売れるが、せいぜい年に一本売れるかどうかである。
 そう言う意味で一般にきものの帯と言えば名古屋帯か袋帯が普通であろう。

 私は単太鼓で締める名古屋帯をもっと気軽に締めてもらいたいと思っている。しかし、現在の帯の主流が袋帯になったのは否めない。普段にきものを着る人が少なくなった事がその背景にあり、フォーマルには袋帯ということで、相対的に袋帯の占める割合が増えている

 袋帯は文字通り袋状になった帯である。袋帯の歴史を紐解けば、そう古いものではなく、明治時代に丸帯の代用として創られたという

 丸帯は江戸時代に創られた正装用の帯である。広幅に織った帯地を二つ折りにして片側を絎けたもので、両面共に柄が出るので非常に豪華な帯になる。丸帯という名称は広幅の織物を丸ごと使うことからきているが、それだけ重く締め難いものとなる。

 袋帯は締め易くするために裏を無地にした片側帯で、当初縫い目を無くする為に袋状に織られていた。その為に袋帯は丸帯に比べて軽く締め易い帯となり正装用として普及した。

 袋状に織られたものを本袋帯と呼んでいるが、現在は本袋帯は少なく、裏表を別々に織って両側をかがった縫い袋帯が主流である。
 本袋帯、縫い袋帯共に袋状に成っているので中に帯芯を入れて仕立てる。軽く薄い帯を好む人の中には芯を入れずに仕立てる人もいる。しかし、織によっては結ぶ時に裏面同士が擦れ合い帯が傷んでしまうので、薄手の帯芯を入れる人が多い。

 正装用の帯として創られた袋帯だけれども、今は様々な袋帯が織られている。留袖や振袖、訪問着に締められる正装用の格の高い帯から、小紋や紬に締める「しゃれ帯」と呼ばれる袋帯まで。また、素材その物が紬糸で織られた紬の袋帯も造られている。

 袋帯は重い帯であることは変わらないけれども、袋帯イコール正装用の帯ではなくなってきている。  正装用の帯としては唐織や綴、佐賀錦など。しゃれ袋帯としては、すくいや紬など。素材や織り方によって決ってくる。

 袋帯は正装用からおしゃれ帯まであると書いたけれども、価格もまた様々であることに驚いている人もいることだろう。数万円の袋帯から数百万円の帯まで、何故このように価格が違うのかと疑問に思われるかもしれない。中には正規な流通ルートを通らない、いわゆるバッタ商品と呼ばれる安売り商品もあるが、それは別として高価な帯と廉価な帯はどこが違うのだろうか。 帯に限らずきものの価格は、素材と手間で決ると言って良い。高価な素材を使えば価格は高くなり、安価な素材を使えば価格は安くなる。しかし、特殊な素材を除けば素材によって数十倍もの価格の開きはできない。価格を左右する大きな要因は主に手間である。

 手織と機械織では手間が大きく異なる。手機では横糸一本一本を手で簸を飛ばしながら通して行き、手で筬を打ち込むのだから機械よりも手間がかかり高価になる。色糸の数が多ければ多いほど手織り職人は、糸を選び簸を通す手間が大変なものと成る。
 また、総柄(六通)の袋帯の場合、紋丈の長さも関わってくる。  総柄の帯は通常繰り返し柄を用いる。この繰り返し柄の単位を紋丈と言う。紋丈が一尺の場合、一尺の長さの柄を繰り返し織っていく。紋丈が1尺と1尺1寸では僅かの手間の違いと思われるかもしれない。しかし、紋織は図案を起こす事から始まり、紋罫と呼ばれる方眼用紙に図案を写し(紋図という)、その紋図を見ながら紋彫屋と呼ばれる人が緯糸一本につき一枚の紋紙を彫って行く。紋丈を1寸延ばすには紋紙を数十枚彫らなければならない。つまり、紋丈を長くする事は価格に敏感に跳ね返る。

 総丈(紋丈が帯の長さと同じ、すなわち繰り返しを使わない柄)の場合は紋紙が四トントラック一台分にもなるという。それらの紋紙を全て間違いなく彫って、順序通りに繋ぎ、それを運搬、設置する手間は膨大なものとなる。
 繰り返し柄では、柄に上下がある場合、太鼓の柄が正立するように柄が配される。しかし、太鼓柄と胴の柄はタテ、ヨコの関係にあり、太鼓柄が正立すれば胴の柄は横向きになってしまう。これを是正する為胴の柄の部分だけ柄を横向きに、つまり締めた時に柄が正立するように柄を配した帯もある。これも手間の掛かる作業である。尤も最近はコンピューターが導入され、一枚一枚紋紙を打つ必要はなくなり、昔ほど手間は掛からなくなっている。

 このようにして手間をかけて織られる袋帯だけれども、見た目に良い袋帯をどう表現したら良いかと言えば言葉に窮してしまう。
「手織りの帯はふっくらとして・・・。」
「立体感があって・・・。」
「重量感が有って・・・。」
などと表現されるけれども、いずれも抽象的である。具体的に説明しようとすれば前出の如く「手織りである」「紋丈が長い」「色糸が多い」などと断片的な要素でしか説明できないけれども、良い帯は見ていただければ一目瞭然である。

 より多くの帯を見て、良い帯に出会って頂きたいと思う。



 

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