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30. 留帯

 きもので使われる帯は英語で何と言うのだろうか。和英辞典で調べてみると、『obi』は『belt』または『sash』とある。私の店にも時折外国人が入ってくる。中には浴衣を求める人もいるが、帯を説明するのに何と言って良いのか戸惑ってしまう。その機能から言えば洋服のベルトに似たもので、私も『belt』と言って外国人に説明しているが、私自身、『帯』を『belt』と言うのは何かしっくりこない。日本の帯は洋服のベルト以上の意味が有る。

 帯はもともとはベルトだった。和服の歴史を見ればそれは明らかで、体を包んだきものを体に留めておく紐、すなわちベルトだった。桃山時代に流行った名護屋帯(名古屋帯ではない)は縄帯とも呼ばれ、文字通り縄で胴を締めるようにベルトの役目を果たしていた。帯そのもので結び目を作り背中に垂らしていた。

 現在の名古屋帯や袋帯は通常背中に太鼓を作り、これを留める為に帯締めが用いられる。言わばベルトの役目を果たしているのは帯締めであり、帯はベルト(帯締め)で留められる衣料品という事ができるかも知れない。

 現在のように帯で背中に太鼓を作るようになったのは19世紀に入ってからである。1813年(文化10年)、亀戸天神の太鼓橋再建完成の折に太鼓結びが結ばれるようになってからである。この時から帯だけできものを体に保持することはできずに帯締めが必要になった。帯締めは平打ちか丸の組紐、綿の入った丸ぐけの物が使われた。実は帯締めは帯を留める為に帯留めと呼ばれていた。今でも帯締めのことを帯留めと言う人もいる。後に帯締めに細工物を付けるようになったのが帯留めである。彫金、鋳金、陶器、珊瑚、木彫り、宝石、真珠、琥珀、象牙、鼈甲などいろいろな細工物の帯留めが作られた。
 日本人の器用さ故によるものかどうか分からないが、日本人は細工物が好きである。根付け、簪、蒔絵、そして友禅など実に繊細な文化を日本人は創ってきた。帯留めもその一つである。わずか五センチ程度の細工物の中には熟練職人の技が込められている。

 帯留めを使う場合、帯締めは通常の物と違って三分紐と呼ばれる平打ちの無地の帯締めが使われてきた。帯留めを引き立て、強調するために無地の物が使われてきたのだろうと思う。最近は、四分紐と呼ばれる少し幅の広い物や、通常の平の帯締めが使えるようにした帯留めも作られている。おしゃれが多様化してきたせいだろうか、帯留めにも色々な工夫がなされている。中にはイタリアのカメオや洋服のブローチを流用した物、又ブローチと兼用できるようにしたものもある。きもののおしゃれの幅も広がってきたものである。 『根付け』の時にも触れたけれども、柔らかい素材であるきものや帯を身に付けるときに固いアクセサリーをアクセントとして身に付ける事は、全体のイメージを高めてくれる。善哉に塩を入れて甘味を引き立てるようなものである。同じきものでも帯を換えれば違ったおしゃれができるように、帯留めを一つ使うだけで今までとは違ったおしゃれができる。  




 

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