Ⅶ-37 またまた呉服業界の危機(羽二重がなくなる)

ブログを書き続けていて、読者には良い話、着物を着るのに希望が持てるような話をしたいと考えている。しかし、残念ながら避けては通れない様な暗い話ばかりが聞こえてくる。現在の呉服業界の問題提起として受け止めていただきたい。

先日、白生地屋さんがやって来て座る早々にこう切り出した。
「社長、羽二重がなくなります。」

呉服用語は複雑で使い方が曖昧なので、この言葉は何を意味するのか、「羽二重」とは何なのか詳しく説明しなければならない。

着物の生地には大きく分けて三種類ある。「縮緬」「羽二重」「紬」である。もちろん細かく分ければまだまだ種類はある。

「縮緬」は蚕から採った糸に強い撚りを掛けて白生地を織る。精錬した時に撚りが戻って表面にはシボと呼ばれる凹凸ができる。

「羽二重」は糸に撚りを掛けないで織った白生地である。撚りを掛けない為に表面は「縮緬」と違ってすべすべして光沢がある。よく使われるのは胴裏地である。真っ白なすべすべした胴裏は着物を着る人ならばすぐに分かると思う。

縮緬の友禅を袷で仕立てれば、表地の「縮緬」と裏地の「羽二重」の区別がよく分かる。他にも「羽二重」が用いられるものがある。染帯に使われる「塩瀬」と呼ばれる生地が羽二重地である。正確に言えば「塩瀬羽二重」と言う。

比べていただければわかるけれども、胴裏に使われる「羽二重地」と「塩瀬羽二重」はまるで違う。何が違うのかと言えば、その厚さである。「塩瀬羽二重」は帯に使われるので厚みがありしっかりとしている。糸の太さの差異によって生地の厚さが異なり、風合いがまるで違ってくる。それでもどちらも「羽二重」であることには変わらない。

「羽二重」の他の用途と言えば男性用の黒紋付である。結婚式の時に新郎が着る黒い紋付の生地である。結婚式では着ないけれども、女性の黒紋付(喪服)も以前は「羽二重地」だった。何時の頃からか「縮緬」が使われるようになり、今はほぼ全て「縮緬地」である。男性の黒紋付に使われる「羽二重地」は、胴裏地よりも厚地で「塩瀬羽二重」ほど固くはない。厚地のものでもとてもしなやかである。日本の着物地は長い時を経て用途に合った生地を生み出してきたと思う。

さて、その白生地屋さんが言った「羽二重」とは、この黒紋付用の「羽二重地」の事である。
業界で胴裏のことは「胴裏」と言い、「羽二重」と言う事は少ない。「塩瀬羽二重」は「塩瀬」と言い、「羽二重」とは言わない。業界内で交わされる「羽二重」と言う言葉の多くはこの黒紋付地を差して言っている。

その白生地屋さんが言う「羽二重」とは、この黒紋付地である「羽二重地」がなくなると言う話である。

つづく

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