Ⅶ-33 日本文化はどこへ行く(その3)

料亭に椅子テーブルが持ち込まれるようになったのは何時の頃からだろう。

原因の一つとしては、住宅に日本間が少なくなり、畳に座ると言う生活習慣が希薄になった事が考えられる。日本間のない住宅もある。そういう家で育った子供の中には正座ができない人もいる。出来たとしても長時間は耐えられない。そういう訳で、畳よりも椅子に座るのを好む人が多くなってきている。

また、怪我をしたり老化で足が悪く畳に座れなくなった人もいる。昔は、そう言った人はどうしたのだろうかと思うけれども、日本人の寿命が長くなっている事も関係しているかもしれない。

どちらも尤もな事で、正座のできない人に無理やり正座してもらう訳には行かない。そんな理由で料亭でも椅子テーブルを用意しているところが多くなった。

日本人が洋服を着用するようになり、書類は横書きで創られるようになり、邦楽が隅に追いやられ洋楽が主流になったのと同じように、これも日本が西洋化した証左であり、仕方がないのかと言う見方もできる。

西洋化の波が次第に日本に浸透してきたと言う事だろうか。

しかし、ここで考えなければならない事がある。日本人は日本の文化を捨て去ることを積極的に進めようとしているのだろうか。椅子テーブルにしても、洋服にしても、またコンピューターで文書を作成する際に横書きなので、と言う理由で文書を横書きにしたり、日本の文化は不便だ、煩わしいので西洋風に切り替えようと好んでやっているのだろうか。

料亭ではお客様の要望により、「年寄りが多いので椅子席ではできませんか。」と言うような要望を汲んで椅子テーブルが用意されるようになった。もちろんその裏には前述したような事情がある。

以前、料亭に椅子テーブルがなかった時代にも、正座できない座れない人には座椅子が用意されていた。低い座椅子は御膳にも問題なく使われていた。しかし、「椅子テーブルがあるのならば」と言う事から、椅子テーブルを利用する客が増えてきたようだ。

客の要望では仕方がないのだけれども、最近では料亭自身が椅子テーブルを前提にする姿勢が感じられる。給仕をする中居さんも椅子テーブルであれば座らずに給仕が出来て楽なのかもしれない。しかし果たして、それで失う物はないのだろうか。

最初に記したように、料亭は日本文化の縮図である。椅子テーブルに慣れたお客さんは「料亭はそんなもの」と思い、本当の日本文化に触れる事もなく洋食レストランと同じように感じてしまうのではないだろうか。

掛け軸や床飾りは必要なくなり、実に日本的な中居さんの立ち居振る舞いもなくなる。芸者さんや舞子さんの踊りも無視されて行くだろう。

つづく

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