Ⅶ-32 江戸小紋(その2)

私もここしばらく捺染の江戸小紋を見る機会が多く、改めて型物の江戸小紋を見るとホッとする思いである。

江戸小紋については、以前「きもの博物館.57」でも取り上げているので今更でもないのだけれども、最近の江戸小紋を見ていると呉服業界の趨勢がうかがわれる。

先に「最近は捺染の江戸小紋が多い」と書いたけれども、最近の消費者の中で型染と捺染の区別がつく人はどれだけいるのだろうか。と言うよりも、型染、捺染と言う違った染め方があると理解している人はどれだけいるのだろうか。

型染と捺染を知らない、区別がつかない消費者が多いとしたら、それは消費者自身の責任?ではない。それが証拠に、私の店にいらしたお客様に型染、捺染両方の江戸小紋をお目に掛ければ、ほとんどの人は型染が良いと答える。型染の暖かさは誰にでもその良さを訴えるのである。

もともと捺染などなかった時代は、江戸小紋と言えば全て型染だった。熟練の職人が丹精込めて染めた江戸小紋ばかりだっただろう。もっともその時分は人件費も安く、価格も今ほど高価ではなかっただろう。そうは言っても、そう安い物でもなかったかもしれない。それ故に、職人が染めた江戸小紋は大切に扱われ、代々着られただろう。

私が来ている万筋の単衣は、私の祖母が着ていたものを仕立て替えして父が着ていた。そしてそのまま私が着ている。

しかし、今日捺染の江戸小紋が多く出回っている。価格は型染の五分の一、又は物によってはもっと安い物もある。

捺染と言う技術によって江戸小紋が安く生産されることとなった。これは悪い事ではない。むしろ広く消費者に江戸小紋を普及させると言う意味では歓迎すべきことである。

しかし、問題は型染、捺染と言う染物が消費者に正しく理解され、着物を普及する為になっているのかどうかである。

「今は捺染の江戸小紋しか買えないけれども、何時か本物の型染の江戸小紋を着て見たい。」と言うような声が聞こえればよいのだけれども、そのような声は聞こえてこない。そして、その責任は消費者ではなく呉服業界にある。

江戸小紋を求めようとしている消費者にどれだけ真実を説明しているだろうか。江戸小紋を始めて見る消費者には、型染も捺染も分からない。ただ「これは素晴らしい染物です。」の説明だけで真実を伝えないケースが多いように思える。

中には耳のない捺染の江戸小紋にわざわざ耳を付けて「これは耳があるので型染の江戸小紋です。」と詐欺まがいの商法も横行している。

江戸小紋に限らず、呉服業界が衰退し、業界の信用が損なわれているのはこう言った業界の姿勢ではなかろうか。

初心者や枚数が欲しい消費者に対しては安価な捺染の江戸小紋を紹介し、その上で型染の江戸小紋のすばらしさも同時に伝えるような姿勢が求められるのではないだろうか。

今、染屋から送られてきた江戸小紋を一反一反見ながら、つくづくそう思う。

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