Ⅶ-16 絹(その3)

既に何年の前から日本の繭の生産は政府の補助金で支えられてきた。補助金により国産糸の価格は安く抑えられてきたが、それでも輸入品とは数倍の差があった。白生地屋さんが言うには、補助金がなくなれば、国産絹織物は現在の価格の三倍程度に跳ね上がるという。

白生地でも同裏地でも価格が三倍になれば、実質買い手はいなくなり、国産絹の生産は終了するのと同義である。

さて、先日白生地屋さんが店に来て白生地の話をした。最近、問屋さんが来て話をすると、良い話はない。問屋や小売屋が店を閉めた話や景気の悪い話などである。この度も、「白生地の織屋さんが一軒やめることになりました。」と言う話と共に「白生地がまた上がります。」と言う。

海外から安価な絹糸が輸入され、絹製品の価格は安くなっていたのだが、数年前から価格が上がり始めた。白生地屋さんが来るたびに「○○が上がります。」と言うのが繰り返されていた。どうして輸入絹糸の価格が上がり始めたのか。

絹糸が輸入され始めたとき、中国をはじめとする絹の輸出国はまだ開発途上だった。それらの国々は急激に発展を遂げている。中国に限って言えば、ご存じの通り、人件費が高騰している。中国に進出した企業が、人件費のメリットがなくなった為に国内に工場を戻す動きも見える。人件費の高騰は絹糸の輸出価格を押し上げている。

また、経済的発展を遂げた中国では、絹の売り先を日本に限らず他の国もそのターゲットにしている。初期の稚拙な生産設備であれば、輸出先は技術協力も得て日本くらいしかなかったのかもしれないが、ヨーロッパをはじめとして絹糸に対して感性の高い国にも輸出を広げている。そこには「どちらが儲かるか。」と言うごく当たり前の判断が伴っている。

中国の産地の中には繭から絹糸を作らずに、真綿の生産に切り替えているところもあると言う。必ずしも日本の呉服業界のみが輸出のターゲットではなくなっている。

また、生活程度が向上することによって、自ら絹を消費するようになり、必ずしも絹糸の生産が輸出の為だけではなくなってきている。これは、絹に限らずあらゆる贅沢品に見られる。

世界中のマグロをほとんど消費していた日本は、海外でも寿司が食べられるようになり、日本にマグロが入らなくなっている。コーヒーもモカが貴重品になっているらしい。香木もしかりである。

今後、益々絹糸は高騰するかもしれない。高騰で済めば良いが、世界中で絹糸の奪い合いに成った時、既に国内生産するすべがなく国内では供給できない。となると果たして白生地の運命は、呉服業界の運命はどうなるのだろうか。

つづく

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