Ⅶ-16 絹

着物や帯を含めて呉服製品の多くは素材が絹である。綿や麻、ウールその他化学繊維の製品もあるが、晴れ着である訪問着から普段着の紬まで絹素材のものが多い。

「正絹」と言う言葉がある。最近はあまり使われなくなったが、私は昔の癖でお客様に「正絹です。」と言ってしまうのだけれども、若い人の中には「正絹」と言う言葉を知らない人も多い。
「正絹」とは、文字通り混じりけのない絹製品であることを意味する。「混じりけのない絹」というのは、絹100%と言う意味である。「正絹」と言う言葉が使われなくなったのは通商産業省(当時の)の政策が絡んでいる。

昔は絹100%の製品に「正絹」の品質表示タグがついていた。同じように綿100%の製品には「純綿」と言う表示もあったと思う。しかし、いつ頃の事だったか忘れたけれども、通商産業省が品質表示を統一するために、繊維製品には「○○・××%」と言う表示を義務づけた。その為に「正絹」や「純綿」と言う言葉は正式な品質表示とは認められなくなり、表記からは消えてしまったようだ。

さて、この「正絹」と言う言葉を知っている人は、この言葉の奥に「とても貴重なもの」と言う意味を感じていたはずである。絹イコール貴重品、と言う意識が「純絹」ではなく「正絹」と言う言葉を生んだものと思う。

私が子供の頃、親や祖父の言う「正絹」と言う言葉にはなにやら重みを感じていた。子供の時分にはそれが何なのかはわからない。子供の私には、絹も綿も区別もつかず同じ布にしか見えなかった。着物の生地も雑巾の生地も違いが分からなかったが「正絹」と言う言葉には特別な意味を感じていた。

私が小学校の時、工作で布が必要だったので店にあった着物の切れ端をもらって作っていたら、「なんだ、工作に正絹を使っているのか。」と父に言われたことがあった。叱られたわけではないのだけれども、その時私は何か大それたことをしたのだろうか、と感じていた。

昔は絹をとても大切にしていた。着物を仕立てた残り裂は仕立てた着物と一緒にお客様にお返しする。こんな小さい端布を一体何に使うのだろうかと思っていたが、当時の大人達はそれをとても大切にしていた。

絹イコール貴重品、と言う意識は知らず知らずに私の心に染みこんでいた。

しかし、昔に比べれば絹はとても安く身近なものとなっている。着物に使う反物も安くなっているが、着物以外に絹の洋服やタオル、ジーンズまで出回るようになった。絹の日傘も作られている。絹がより身近なものとして生活に入り込んできている。

何故絹が安く大量に出回るようになったのかと言えば海外からの輸入が原因である。中国やブラジルから安価な絹が大量に入るようになったのである。

もともと絹は日本の殖産産業で、明治時代に外貨を得るための輸出品として富岡製糸工場をはじめ、全国で生産された。輸出羽二重と言う言葉が示すとおり、絹糸や絹織物は日本の輸出品ナンバーワンだった。しかし、それが大量に輸入されるようになった。

つづく

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