Ⅶ-15 呉服の流通に関する気になる動き(その2)

通常の商取引では、前者の「買取」が原則である。問屋は生産者から、売れるだろうと思える商品を買い取って在庫とする。生産者には代金を約定に従って(決められた期日に)支払う。これで取引が完了する。

小売店は、問屋の商品から自分の店のお客様に売れるだろう商品を買い取って在庫とする。そして来店したお客様に商品をお目にかけて買っていただく。問屋には約定に従って商品代金の支払いをする。

このような「買取」が呉服業界でも元々の原則であり、そのような取引で商品が動いていた。

私が子供の頃(昭和30年代)には月に一度か二度やって来る問屋さんが段ボールの箱をいくつも店に持ち込んで商品を広げ、祖父がそれを一つ一つ柄と価格を比べながら商品を買い取っていた。そして帰る時には、以前買った商品の代金を支払っていた。商品と引き換えに代金を支払う、と言った極当たり前の商売である。

一方、「浮き貸し」は、商品を預かり、後日売れた分だけ代金を支払う取引法である。これは、呉服業界に限らないかもしれない。

この「浮き貸し」は以前からあった。昭和30年代から40年代に掛けては、店にやってきた問屋さんが、売れ残った商品を「来月まで置いて下さい。」と言って置いて行くこともあったと言う。当時は、京都の問屋さんが、肩に担ぎあげなければならない様な段ボール箱(ボテ箱と言う)を4~5個も持って夜行列車で商売に周っていた。

当時呉服は良く売れたので、その商品は、得意先を一回りすると残りは1箱くらいになった。帰りには手ぶらで帰りたいと言う事情もあったかもしれないが、残った商品を小売店に預けて荷を軽くしていた。しかし、当時はこのように浮き貸しで置いても相当数売れることは分かっていた。もしも、次の月に多数の返品があっても、また他の店に行って置いてくれば売れるだろうと言う目算もあったのだろう。

問屋さんにしてみれば浮き貸しをしても十分に効率の良い商売ができたのだろう。しかし、それでも小売屋(私の祖父)は商品を買い取っていた。少しでも柄が良く商品を安く仕入れるためである。浮き貸しでは一般的には値引き交渉はできない。問屋が言い値で商品を置いて行く。買取の場合は、ぎりぎりの値段交渉を経て買取の価格が決まる。その為に店の在庫とする商品は柄と価格に自信がなければ購入できない。そこに商品を買い取る小売屋の責任と目利きが生じるのである。

その後、この「浮き貸し」と言う取引は時代と共に様々に形を変えてきた。

私の店では買取を原則として仕入れているが、「浮き貸し」も利用している。お客様からの注文に適する在庫がない場合、問屋に商品を送ってもらい商いをする。売れたものは仕入れとなり、売れなかったものは直ぐに送り返す。

このような取引は、現代のなせる業である。電話で注文すれば商品が翌日、あるいは翌々日には届く、と言った流通運輸の発達が背景にある。鉄道貨物が主流だった時代には商品が届くのに一週間も掛かった。場合によっては駅まで荷物を取りに行くこともあった。昔はこのような取引はできなかっただろう。便利な時代になったものである。

しかしそれでも、このような浮き貸し取引はできるだけしたくない。と言うのは、現在商品が少なくなり、問屋に頼んでも適切な商品がない場合が多い。できるだけ自分の目で見て納得してお客様に商品を提供するには、やはり買取をしなければならないと私の店では考えている。

つづく

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