Ⅶ-13 成人式と振袖業界(その3)

着物の中で振袖は特殊である。振袖は若い(未婚)女性の第一礼装として着られる。結婚式や正月にも着たりするけれども、多くの女性が成人式に同時に着る。逆に言えば、振袖を着る日(必要な日)が特定されるのである。

商売は、消費者の需要に応じて行われる。消費者が必要な物を必要な時に供給するのが商売である。お客様が何時どんな着物を着るのかは通常不特定である。あるお客様の親族の結婚式がいつあるのか、友人の結婚式がいつあるのかは他人にはわからない。お茶を始めようと思っているのか、友人と着物を着て女子会を何時するのか、呉服屋は分からない。いつ何時着物が必要になってもそれに応えられるようにしているのが呉服屋である。

振袖を売る店が呉服屋から振袖屋に変わった原因はその辺にあると思う。
ほとんどの女性が、誂え仕立て、レンタルを問わず成人式で振袖を着る。そして、その振袖を着る日は特定されている。さらに、振袖は一式揃えればそこそこの金額になる。金額の張る商品は逆に値引きをして(安価に)消費者の目を眩ますのに都合の良い商品である。しかして振袖を売り込むパターンが築かれていく。

できるだけ早くターゲットとなるお客様を掴んで営業を掛ける。成人式が近づけば、DMを送り何度も電話で勧誘する。同じターゲットとなるお客様に複数の振袖業者が同時に売り込み合戦をすることになるので、あの手この手の売り込み合戦になる。

上述したように「早く決めて頂かないと、当日の着付けは良い時間が採れません。是非早く決めてください。」と言うのもいち早くお客様を確保しようとする手段である。そして、他の業者よりも早くお客様を囲い込むために、一年前の予約、二年前の予約と言う事になるのだろう。

これらの努力は商売としては当たり前のことで、真面目に振袖の商売をしている呉服屋も沢山ある。しかし、売り込みがマニュアル化された振袖市場には呉服屋とは違った業者が参入してくる。

呉服の商売は実に難しい。呉服だけではなく専門的に商品を扱う商売は、宝石であれ、魚であれ、お茶であれ必要な知識を得るには並大抵ではない。しかし、マニュアル化された振袖業者の商売は、呉服を扱った事のない人でもマニュアルに従って営業現場に立たされる。そう言った意味で、振袖を売るのは、我々呉服屋ではなく振袖業界になってしまっている。

これも時代の流れなのだろう。成人式の振袖を見ると、花魁かと思わせるような振袖から、ミニスカートのような振袖、チャンピオンベルトのような帯締めなど、呉服屋の目から見れば、まるでよその業界の商品である。とは言え、今振袖は振袖業界が主流である。私のような店は化石のような店かもしれない。

しかし、その化石のような店に本来の振袖を求めてやってくる人は少ないながらいらっしゃる。そういう人達の為にも、振袖を扱い売り続けなければならないと思う。

消費者にお願いしたいのは、自分の目で振袖を選ぶことである。「早く決めて頂かないと、・・・」の言葉に惑わされず、「〇〇点セットで〇〇円ですよ。」に振り回されずに良い振袖を選んでいただきたい。そうすればこの度の「はれのひ」のような悲劇は避けられるものと思う。

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