Ⅶ-13 成人式と振袖業界(その2)

年頃の娘さんがいらっしゃる方であれば経験する事だが、成人式の数年前から振袖のDMが山の様に送られてくる。中にはビデオテープのカタログが同封されるDMもあると言う。それらのDMを送るのは、振袖を専門に、あるいは振袖に力を入れている呉服屋である。そう言った呉服屋さんが販売する振袖が成人式で着られる振袖の大半を占めている。

派手なDMを送らない私のような店は「(振袖を売る)やる気のない店」と思われるかもしれない。実際に私はお客様からお叱りを受けたことがある。

「娘の成人式が近いのに、結城屋さんから振袖の案内が来ると思っていたのに、来るのは他のお店ばかり。豪華なDMやビデオテープまで入ったDMが山ほど届くんです。」
その後、振袖をお目にかけて仕立てて、とても喜んでいただいた。

実際に届いたDMを見せていただいたけれども、とても私の店では真似ができるよう代物ではない。大量に印刷するのだろうけれども、「一冊いくら掛かるのだろう」と思われるものばかりだった。モデルの撮影だけでも相当掛かるだろ。私のような小さな店で創れるものではなかった。

問屋の中には、振袖専門のDMを創って呉服屋に販売しているところもある。しかし、それでは他の店との差別化は成り立たないし、扱う振袖も特定の問屋に限られてしまう。そして、そのような振袖は私の店では扱わない物ばかりである。

未成人に対する振袖販売アプローチはDMばかりではない。その筋の話によると、振袖を売り込む対象者は幼稚園、店によっては生まれた時からマークしていると言う。女子の新生児をマークして七五三、幼稚園入園まで把握して成人式の振袖販売に結びつけていると言う。

成人式が近づいてくると電話による勧誘も頻繁に来るようになるらしい。同じ店から何度も電話がくる。何軒もの振袖業者から電話が来て、「毎日のように」と言っていたお客様もいた。

振袖業者による売り込みのマーケティング、販売努力は商売人とすれば尊敬すべきものである。しかし、我々のような零細の呉服屋ではとてもついて行けない。

今回の事件で、2年後の成人式の振袖予約をして現金を支払っていた人も多数いたと言う。2年後に着る振袖が残っているのか、同じ振袖を今年も着る予定だったとすると、その振袖はどうなるのか。

振袖業者は、とにかく他の振袖業者よりも早く確約を採ることを目指している。成人式の振袖は、購入するにしてもレンタルするにしても二着はいらない。先に客を確保した方が勝ちである。電話で勧誘を受けたお客様に聞いてみると、
「早く決めて頂かないと、当日の着付けは良い時間が採れません。是非早く決めてください。」
と再三言われると言う。

売り込みのアプローチは段々早くなり、確約も一年前、二年前と早くなっている。
「早く決めて頂かないと・・・」と言うのは、殺し文句の売り口上なのだろう。

つづく

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