Ⅶ-ⅻ 着物との本当の付き合い方とは(その3)

その家は名家で、山形で大きな会社を経営している。息子さんは既に社長さんで、お父さんはもう引退している。

先々代から付き合いはあるが、度々着物を買いに来ているわけではない。私の父が生きていたころ先代さんと合えばよく「結城さん、娘結婚する時には着物を買うから。」と言われたのを私もよく聞いていた。

私が山形に戻ってきてからあまり店に来たことはなかったが、その娘さんが嫁ぐ時には一式揃えてくれた。他にも結婚式など必要な時に何度か買っていただいたが、しょっちゅう店に来るわけではない。必要に応じて必要な着物を買いに来ていた。私の店でも着物を売り込みに行くでもなく、着物について相談されれば相談に応じていた。

その家の方が私の店に余りやってこなかったのは訳がある。それは、着物を買う必要がなかったのである。買う必要がないというのは、名家であるがゆえに着物はたくさん持っていた。先代に嫁いできた大奥様も沢山の着物を持参したのだろう。また、先々代の旦那はいつも着物を着ていた。だから沢山着物を持っていた。

つまり、着物を着る事はあるが、買わなくても着物はある。しかし、必要に迫られれば結城屋で着物を買う、という極当たり前のことだった。

さて、その息子さん(社長さん)が着物姿で自転車の荷台に大きな風呂敷包みをつんで店にやってきた。普段はスーツ姿の社長さんである。

「〇〇さん、今日はどうされたのですか。」
と聞くと、

「先輩(私の事を先輩と呼んでくれる)、ちょっとこれを見てもらいたいんです。」
そう言って荷物を解いて店に持ち込んだ。風呂敷からは反物が十反程出てきた。

「蔵を掃除したら出て来たんです。」
反物はいずれも古いものだった。黄色くなった箱に入ったものや、破れた紙に巻かれたものなど。綿やウールの反物だった。

「私は家ではいつも着物なんです。この着物を着てお尻を端折って洗濯や風呂掃除をしています。」

大社長さんが家で着物の尻を端折って風呂掃除をする姿を想像して、少し可笑しくなったが、かえって名家に似つかわしいようにも思えた。そして、
「私の次男も着物が好きで息子にも一枚作ってやりたいのですが、これで何とかなるでしょうか。」

私は反物を一反一反調べた。中には初めて見る反物もあった。ウールの丹前地である。ウールの生地の裏にネルの生地を張り付けたような反物だった。仕立てれば単衣の仕立物になるが、袷と同じような温かい着物になる。生地の端には「寿」の字が赤く染められていた。

「昔、結婚式で引きものとして貰ったもののようです。昔は引きものに反物を使っていたんですね。」

結婚式で貰った反物をそのまま蔵に仕舞っていたものらしい。

他にもウールや綿反があった。それぞれの反物の幅を計ってみたが、男物に仕立てるのに綿反は幅が狭く裄が出ないものが多い。結局、丹前地が二反あったので、本人と息子さんの着物を仕立てることになった。

つづく

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