Ⅶ-ⅸ 染帯の怪(塩瀬帯の消滅)その3

 着物は高価でデリケートである。また創った人の心も籠っている。そう言った着物は細心の注意を払って扱わなければならない。塩瀬だけでなく呉服商品の扱いについては私も先輩に十分に注意された。
「商品を触る時には手を洗うように。」
「飾ってある袋帯を撞木から外す時には裏が擦れないように一度持ち上げてから外すように。」
「唐織の帯を扱う時には糸を引っかけないように腕時計などに注意するように。」
等々、いずれも呉服商品を扱う基本的な心掛けである。

 呉服に限らずどの業界でも商品を扱う時には細心の注意払っている。魚屋さんであれば魚の鮮度が落ちないように。陶器屋さんは商品の陶器が欠けないように。商品は、それを扱う商売人にとっては取扱いに気を付けて扱わなければならないものである。
 しかし、呉服業界、呉服の展示会での商品の扱われ方にはひどいものがある。その結果塩瀬の染帯は哀れな姿で染屋に戻ることになる。

 原因は、第一に販売員の着物に対する意識の低さがある。お客様を展示会に送り込むだけの販売員。何でもかんでも売れればよいという販売員、マネキンさん。そう言った意識が商品の扱いに反映されてくる。

 また、展示会で並べられる商品はほとんどが浮き貸し、すなわち問屋やメーカーから借りてきた商品であるということがある。自社の商品(買い取った商品)であれば、商品を傷めることが何を意味するのかが分かるはずである。そこには、他人の物だからぞんざいに扱うと言った非常に稚拙な意識が垣間見える。

 一人の販売員にしてみれば、言われたようにお客様を勧誘し展示会に連れてくる。皆がするように商品を扱いお客様に勧める。と言ったように、何の罪悪感もないのかもしれない。このあたりにも呉服業界の問題が浮かび上がってくる。

 呉服業界の流通形態がおかしくなっている。小売屋は商品を買わず問屋からの浮き貸しで商売をしようとする。商品を買ってもらえない問屋は疲弊し、問屋自体が商品を買えずにメーカー(染屋織屋)から商品を借りて商売をする。シワ寄せを食ったメーカーは、本来の物創りに専念できずに創った商品を貸して商売をしている。呉服を扱う者は、そのプロとしての意識が欠如し、着物は商売で利益を得る媒体としてしか認識していない。

 染屋が塩瀬の染帯を創らない事情の裏には呉服業界の深刻な問題がある。

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