Ⅶ-ⅷ 呉服屋がなくなる時(その4)

 呉服店が商売をするために仕入れる物は着物地や帯に限らない。胴裏や帯芯などの仕立てに必要な付属品。半襟や帯締、帯揚、草履などの小物。それらが揃って初めて着物や帯を仕立てることができ、着物を着る事ができる。

 こう言った小物や付属品はとても種類が多い。半襟を一つ取って見ても、秋冬用の半襟と夏用の絽の半襟がある。素材によっても、正絹、交織、化繊、麻など。そして、色物や柄物、刺繍半襟など。全ての半襟を揃えようとするだけで途轍もないアイテムの半襟を在庫として用意しなければならない。

 また、裏襟は表には出ないので半襟ほど種類は多くはないが、羽二重、夏用の絽、化繊、キュプラ、麻など様々な種類がある。

 これら半襟や裏襟は今でも相当数の需要があるが、最近ほとんど需要のなくなった付属品もある。昔は、日本人のほとんどが四六時中着物を着ていたので、着物の種類は現在に比べてはるかに多かった。綿やウールの着物。半纏、寝巻、掻巻、ねんねこ、産着や子供の着物(普段着の)等々。それらを仕立てるには、着物と同様に表生地と付属品が必要だった。

 普段着として用いられた生地は、木綿やウール。木綿にも材質や産地によって高価なものから極廉価なものまで。ウールと一口に言っても、「しょうざん」等の染を施したものから、ネル、セル、メリンスまで種類があった。

 しかし、それらの着物(訪問着、小紋、紬といった現在呉服屋に並んでいる商品ではない着物)はほとんど需要がなくなってしまった。なくなったと言っても、まったくというわけではなくていくらかの需要はある。ウールの着物を求めてくる人は稀にいるし、何十年も使った掻巻がボロボロになったので相談に来る方もいる。そして、未だに自分で仕立てをする人が、裏襟や袖口に使う黒八、別珍衿を買いに来ることもある。

 そう言った商品は、着物のパーツとして昔はどこの呉服屋でも扱っていただろう。しかし、そう言った商品を扱っている呉服屋はほとんどないらしい。私の店に来て、
「別珍の衿は置いていますか。」
という問いに、
「はい、ございます。」
と言うと、「本当にあるんですか。」といった驚いた様子で買って行く。

 私の店では、ほとんど動かないような商品でもできるだけ置くようにしている。在庫の金額としてはそう大きくはないし、やはり常に着物を着ている人達が利用できない呉服屋にはなりたくないと思う。

 しかし、小売屋はそれで済むのだけれども、それを作る立場(メーカー)になるとそうはいかない。わずかな需要の為に商品を生産するのは大変なことである。

 先に挙げた袖口や半纏、丹前の衿に使われる黒八は、私の店で売れるのはせいぜい年に2~3着分である。一着分は1,000~1,500円。山形県ではおそらく私の店も含めて数件しか扱っていないだろう。そう考えると、全国で年間どれだけ黒八が売れるのだろう。

 メリンスの襦袢は普段着用として着られてきた。普段着に正絹の襦袢ではもったいない。メリンスであれば安価でメンテナンスも楽である。そういう意味で私の店では普段着にはメリンス襦袢を勧めてきた。メリンス襦袢は多彩な色柄で染められ、以前は柄見本帳と言えば生地を分厚く閉じたものだった。しかし、最近は柄数が限られてきた。先日男物のメリンス襦袢を発注しようとしたところ柄は色違いも含めてせいぜい十種位。柄を選ぼうにも選べなくなってきている

 メーカーとしては多くの柄を生産できるほどの需要がないのだろう。需要のないものは、メーカーとして生産を減らし、時には生産を終了せざるを得ないのは、この業界に限ったことではない。

                                   つづく

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