Ⅵ-ⅶ 不思議な下駄(その2)

 昔から日本人が履いてきた下駄や草履の鼻緒は真ん中に付いている。昔は日本人であれば誰しもが履いていたので、何の違和感もなく履いていた。しかし、和装が廃れ洋装が主流となってきた現代、履物と言えば靴、カジュアルな履物としてはサンダルがある。サンダルの中には鼻緒の付いているものもあるが、それらの鼻緒は内側に寄っている。下駄、草履に右左はないが、サンダルには右左がある。

 下駄、草履は鼻緒が真ん中にあるために、外側の小指ははみ出てしまう。また、踵は出るのが普通である。この点が洋式の履物と大きく違う。

 洋式の履物に慣れた人が下駄や草履を履くとまずこの点に違和感を感じる。

 お客様に試しに履いてもらうと、「この下駄小さくて小指がはみ出してしまいます。」「この草履は踵が出てしまうのでもっと大きな草履はないですか。」と言われることが度々ある。お客様足のサイズを聞いたうえで勧めるのだが、このような話はよく聞く。

 鼻緒は、初めて履く時にはきついのが当たり前である。履いているうちに足になじんで緩んでくる。従って新品の下駄、草履は足が入りずらい分余計に踵が出てしまう。それで益々下駄が小さく思えてくるのだろう。
このような事情は、洋装が主流の現代においては致し方のない事だろう。お客様には洋式の履物との違いを説明して履いてもらわなければならない。履いていただければ下駄や草履の良さは分かっていただけるし、着物や浴衣に合ったいでたちで履いていただけるのである。

 しかし、問題なのは、お客様から「小指が出る」と言われれば鼻緒の位置を変える。「踵が出る」と言われれば妙に長い下駄を創る、と言った事が業界で行われていることである。

「お客様の要望に合った商品づくり」のつもりかもしれないが、本当に下駄、草履の事が分かっている人がそんなことができるだろうか。もしも、「訪問着の袖が長いので着ずらい」と言われれば洋服の袖のような訪問着を創るだろうか。初めて着物を着る人、初めて下駄を履く人の意見を聞いて着物や下駄の本質を教えることもなく迎合した商品づくりは何をもたらすのだろうか。

 以前に書いたけれども、裄が2尺3寸位の既成浴衣が問屋に有った。百貨店の担当者からの依頼で創った言う。おそらくこの下駄も大手の流通業者の依頼で創ったものだろう。

 流通業界では沢山売る者の意見が通る。大手の流通業者がモノ作りに介入してくるけれども、果たしてその人達は自分が創らせようとしている商品にどれだけ知識があるのだろうか。

 和装業界はその規模が縮小しているだけ業界に関係のない人達の影響力が増してきている。今後、私の目には「変な商品」が出てくることだろう。それを消費者がどう捉えるのか、業界の人間はどのように扱うのか、着物の将来が案じられる。

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